俺は人間集音マイク。
集音するけど録音はしない主義。
でも時たま、感情の誤作動により脳内フォルダに音声データが保存されている事がある。
さて、今日のフォルダを見てみよう。
・202001291848.wav
これがあった。とりあえず再生。
…
「今日、ちょっとショックな事があって。」
…
誰だろう。30〜40代くらいの女性の声だ。
多分通りすがりに聞こえたものだろう。
誰に話していたのかは分からないが、おそらく親密な相手だ。人間は(一部の人種を除いて)、弱った声を簡単には他人に聞かせたりしない。信頼がなければそのような事はない、と勝手に思っている。自分は少なくともそうだから。
5秒ほどの音声データだ。そこから何が分かるというわけでもない。でも、繰り返し、同じデータを再生する。
「今日、ちょっとショックな事があって。」
他人の生活の一部を軽々しく想像するのは悪癖かもしれない。21世紀の精神的生活盗聴者。20代のサラリーマン、精神的盗聴容疑で逮捕。そうでもなれば控えるだろうけど。
結局、その人のちょっとしたショックな出来事を想像する事はできない。でも、揺れた感情をマイクは拾った。意図的ではないにしても。感情の1/f揺らぎ。それをサンプリングしたミュージックコンクレートをいつか作ろう。
俺は人間集音マイク。録音機能は故障中。
主義ということにして、誤魔化しておく。