かねてより申している通り俺は鍋キューブを主食としている。もはや鍋キューブの付け合わせとして野菜、肉、キノコ類等々は存在していると言っても差し支えない。
今日は心のどこかで敬遠していた鍋キューブファミリーの異端児、キムチ鍋味を購入して食した。
知っている人もいるかもしれないが、俺はカプサイシンと敵対関係にある。それを口にすることは、闘いの火蓋を自ら切って落とす行為に他ならない。
しかし、俺はファミリーを愛すと決めたのだ。異端児と罵られ、他のキューブにうつつを抜かした俺にこれまで購入されることなくただ健気に陳列されているだけの存在だった彼を。
カプサイシンを憎んでキューブを憎まず。
俺は無限の愛で彼を包み込んだ。口で。
カプサイシンは容赦なく毛穴という毛穴を開かせた。俺は半狂乱となり、真冬というのに窓を開けて換気扇をつけ、上半身の衣服を脱ぎ捨ててまで彼に食らいついた。
体内で踊り狂う汗という汗。身体中から放出される熱気でこの部屋は霞みがかってきた。意識が遠のく。濡れるタオル。それでもやめない。ダメな息子を、それでも愛そうとした。
遂に俺は彼の味がする食物を全てたいらげた。
そこには上半身裸で滝のように汗を流す痩せ形の男の姿があった。カプサイシンとの闘いの終焉である。
しかし俺はその時、まだ気付いていなかった。
明日の弁当にも、彼のエキスを存分に含んだ食物が内包されているということに。
つづく。