天と地とテノチティトラン2

私はロボットではありません

わたしのことがわからなくなったとしても

人の話を聞くのは、並大抵のことではない。

 

それは人生を分けてもらう行為だから。

 

そして俺は新たな責任を負うこととなる。

 

何故そうするのだ?

 

俺は俺の人生で手一杯ではないか。

 

同情?

 

そんなもので、容易く見ず知らずの人生を請け負うものではない。

 

仕事だから?

 

いやいや、俺の仕事にそのような業務はない。完全に蛇足。無駄な労力。

 

「もし、私のことが分からなくなっていたとしても、それでも共に過ごしたい。あと少しの時間しか残されていないかもしれない。でも、それが私の人生で唯一の望みだから。」

 

名前しか知らない人はそう言った。

 

俺は相槌を打つことしかできない。

 

俺の中に、見ず知らずの人生が注ぎ込まれて行くのをじっと見つめていた。

 

予兆?

 

そのような非科学的思想に立ち寄ったが、どうやらそうでは無いようだった。

 

予感?

 

近しいものはある。数十年後に我が身に訪れるであろう美しき悲劇。

 

俺は澱みなく流れ込むその人の人生を検分しながら、自らの結末を想像していた。

 

「希望を捨ててはいけないよ」

 

絞り出すような弱々しい声と裏腹に、その言葉は力強く俺の心に響いた。

 

「楽しいことが人を生かすから」

 

 

 

 

気づけば、昼下がりの緩やかな速さを保っていたはずの時計の針は、既に夕方に差し掛かろうとしている。

 

俺はぐったりと疲れ、何も手につかなくなってしまっていた。

 

異なる人生は、俺の中で消化されるのを静かに待っている。

 

時より気泡のように弾けては脳を刺激し、様々な感情を生む。

 

 

俺は祈ることしかできない。

 

 

あなたのたった一つの望みが叶いますように。

 

できれば、あなたのことをわかってくれますように。

 

(2021/4/23の下書きより掘り起こし)

 

人生が二度あれば

人生が二度あれば